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迅速検査を行わないことについて 詳細

投稿者 j_sugimoto 日時 2020年3月16日

前回のブログ記事で、鼻腔および咽頭からの迅速検査(インフルエンザや、溶連菌、アデノウイルス、RSウイルス、マイコプラズマなど)は行わない旨を書かせていただきました。
このことに関連して、患者さんに不満と不安を与えてしまわないように、今一度、現状の説明と、私の考えを、前回よりももう少し詳しく書かせていただきます。

もともと、インフルエンザの迅速検査は、必ずしも必要な検査ではないと、私は思っています。
例えば、発熱初期などで検査しても陰性、翌日に検査で陽性ということはしばしばあります。できるだけそれを減らすために、「検査するにはまだ早いから明日来て」ということもよくありますので、そう言われた経験のある方もおられると思います。
他院で2回検査してどちらも陰性、でも熱が下がらず、3回目、当院で陽性、となる場合もあります。熱が続いている場合、最初からインフルエンザだったのか、途中からインフルエンザの熱にかわったのか、はっきりとはわかりませんが、この場合も陽性になったので、少なくとも今の熱はインフルエンザですね、ということになります。48時間を超えてしまっているのでこのまま対症療法で経過をみましょう、ということにもなります。
インフルエンザを疑う症状があっても、検査が陰性のままの場合もあります。
いずれも、対症療法だけでも、大部分の患者さんは治っていきます。

症状が強いなど、必要と思われる場合にはタミフルなどの抗ウイルス薬を処方します。インフルエンザと診断した時に当院からお渡しする説明の用紙にも書いてありますように、治療効果としては、使わない時と比べて1.5日程度、早く解熱することが期待できます。
検査して陽性を確認してこの薬を使うことも当然ありますが、最初から症状がインフルエンザを強く疑わせるものであり、家族にインフルエンザがいて、明らかにインフルエンザがうつったであろう方には、検査をせずに処方することもあります。
また、検査が陰性でも、やはり症状はかなりインフルエンザを強く疑わせるものであり、一緒に受診した同胞の方がインフルエンザ陽性であったなど、やはりインフルエンザだろうと思われる場合には、保護者の方と相談の上で、処方することもあります。

つまり、検査をしてもしなくても、インフルエンザの治療をすることもあれば、インフルエンザ検査陽性でも、対症療法だけすることもあります。

迅速検査が陰性であってもインフルエンザであることは否定できません。「偽陰性」と言いますが、時間が早くて検査にまだ出ていない可能性、あるいは検体の採取がうまくできずに陰性になってしまった可能性、時間が充分で手技にも何ら問題がなくても結果が陰性に出ること、などが考えられるからです。
また、治療方針は検査をしなくても、症状から決めることができます。
だから、検査は必ずしも必要ないと考えているわけです。

もちろん、他の人にうつってしまう病気でもありますので、大まかに言えば、検査しておくに越したことはありません。検査をした方がしないよりも診断の精度は上がりますし、原因がはっきりするのは良いことです。だから、普段は、疑ったら検査していますし、そのことに意味は当然あります。
「インフルエンザ検査なんか意味がない!」という意見の医師も世の中にはいるようですが、私はそこまでは思っていません。
ただ、なけりゃないで、そんなに困らない、とは言えます。
少なくとも目の前の患者さんの診療に関しては、ほぼ、検査しなくても問題ないのです。
検査して「偽陰性」つまり、本当はインフルエンザなんだけど検査で陰性になっちゃった患者さんが、陰性だからと熱が下がってすぐに学校あるいは保育園に行って周りに感染を広げてしまう。検査をすると、そういう弊害もあります。インフルエンザなどの迅速検査は、偽陽性はあまり多くないのですが(でも少しはあります)、偽陰性はわりと多い検査なのです。それなら、検査をしないで、症状から、インフルエンザの可能性があるから5日間おやすみしてください、という対応をした方が、病気を広めずに済みます。

もともと迅速検査の意味はその程度であることを前提として。
現時点の日本の状況は、新型コロナウイルスのパンデミック(広範囲に流行)になっている真っ只中にあります。
今は、少しでも感染拡大を防ぐ必要があります。
私達医療者は、自分のクリニックや病院で、新型コロナウイルスの感染を広げてしまうことを、できる限り避けたいと思っています。
もちろん、自分自身も感染したくないです。そして、私やスタッフが感染してしまうと、そこからたくさんの当院の患者さんに感染を広げてしまう可能性がある。それを何よりも恐れています。
インフルエンザ迅速検査は、鼻に綿棒を突っ込むことで、咳やくしゃみを誘発します。
もし、今検査をした患者さんが、新型コロナウイルスの感染者だったら。診察室内にウイルスを撒き散らしてしまう、ということです。
もちろん、その時に診察室にいる、私や、横にいる看護師にうつってしまうかもしれません。
その次に診察室に入ってきた患者さんが、まだ漂っているウイルスを、吸い込んでしまうかもしれません。
診察後、患者さんが検査の結果を待っている間に、待合室で咳やくしゃみを連発していたら、さらに感染を広げてしまうかもしれません。

平常時なら、なんて大げさな、という話です。そこまで考えなくても、身構えなくても、という話です。ですが、今は、世界中が、感染拡大を防ぐために、自宅待機、移動制限などさまざまな制約を受けながら、いろいろなものを我慢して、暮らしています。

どんな生活をしていても、風邪は、ひきます。特に子供は、風邪をひきながら、強くなっていくものなのです。
今、目の前にいる風邪症状と熱がある患者さんに対して、検査をすべきか。それとも、しないべきか。
私は今でも、葛藤を抱えながら、診療を続けています。
どうしても、インフルエンザ迅速検査をしなければいけない時とは、どんな時でしょうか。
目の前の患者さんが、新型コロナウイルスの感染者かもしれない、それをばらまくリスクを負ってでも、それでも検査をすべき時というのは、どんな場合でしょうか。
私だけではなく、たくさんの医療者が今、そのような葛藤を抱えています。責任ある立場の人が、そのようなことを真剣に考えた結果、厚生労働省と医師会などからの通知が出たわけです。そして、その通知に従って、当院では、少なくとも当面の間は迅速検査をしない、という結論に達した次第です。

以上、長くなってしまいましたが、ご理解とご協力を、重ねて、お願いします。

一日も早く、今の騒動が落ち着いて、また、「症状も重くはないし、この子の治療だけを考えたらインフルエンザの検査はしなくても良いかもしれませんが、うつる病気ですし、一応やっておきます?」といういつもの会話ができる、普通のことが普通に出来る外来に戻ることを、願ってやみません。