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くる病

投稿者 j_sugimoto 日時 2015年7月20日

最近、「ビタミンD欠乏性くる病」に罹る乳幼児が増えているという報告を読みました。栄養不足を象徴するような昔の病気が、なぜ食生活豊かな今、また出てきたのでしょうか。
その背景には、食生活の偏りと、日光照射の不足があるようです。

ビタミンDは、カルシウムの体内への取り込みを手伝う働きをします。
ビタミンDが不足すると、カルシウムを小腸から吸収することができなくなり、骨の石灰化が障害されます。
石灰化されない骨は脆くなり、体重がかかると曲がってしまいます(O脚)。
また、骨が伸びなくなるため身長の増加が鈍り、低身長の原因にもなります。

ビタミンDには二つの供給源があります。
一つは、食事などから栄養として摂取すること。
もう一つは、紫外線に当たることにより皮膚で合成することです。
近年の育児法ではどちらも不足しやすいと言えます。

母乳は乳児にとって最もすぐれた栄養法ですが、ビタミンDの含有量は不足しています。完全母乳栄養では、所用量の約半分しか満たしません。その不足を補うのが毎日の日光浴です。日光の紫外線を浴びると、皮膚でビタミンDが合成されます。一日に10~15分間、通常の服装で柔らかな日射しに当たれば、ビタミンDの合成に十分です。
なお、ミルク(人工乳)には十分量のビタミンDが添加されているため、完全人工栄養の場合には、ビタミンD不足は生じません。

完全母乳栄養はビタミンD不足になりやすいですが、母乳栄養だからというだけで、ビタミンD欠乏性くる病を生じるわけではありません。
くる病に罹った子どもの背景には、もともと母乳栄養で、紫外線に全く当たっていない場合や、食物アレルギーのために(または食物アレルギーの発症予防のためと称して)食品を極端に制限している場合、あるいは母親が偏った食生活を送っている場合など、複数の要因が重なっています。
母乳がすぐれているのはあくまで母体が健全であることが前提条件ですから、極端に痩せていたり偏食のきついお母さんからの母乳はビタミンD含有量がさらに少なく、子どものビタミンD欠乏の原因となります。

紫外線の害が声高に叫ばれ始めた1990年代から、世界的にくる病の発生が増えています。日本でも、以前は母子手帳にも日光浴の奨励が明記されていましたが、1998年頃以降は「外気浴」の言葉に置き換えられました。
昨今では、乳児用の日焼け止めクリームなど紫外線対策の商品が氾濫しています。
過度の紫外線が皮膚癌や皮膚老化につながることは確かですが、適度の日光(日焼けするより少ない量)まで恐れる必要はなく、むしろ紫外線を避けすぎることも良くない、ということです。

母乳栄養でビタミンDが不足し、離乳食でも不足分を取り戻せないと、くる病の危険性が増します。ビタミンDは、魚、卵黄、きのこ類、バターなどの食品に豊富に含まれています。卵、シラス、カジキマグロ、サケ、カツオ、ツナ、干し椎茸などを活用すると良いでしょう。
アトピー性皮膚炎や食物アレルギーで食事制限(除去)をしなければならない場合、ビタミンDが不足しないための工夫を考えますので、ぜひ受診して相談して下さい。

くる病だけでなく、食事制限により栄養バランスが狂って病気になることがありますので、決して親御さんの思い込みだけで「念のために」などと食事制限をしないで下さいね。